施工業者の選択方法
見積参加業者の公募
分譲マンションなどでは、必要な改修工事を行う場合にある程度大きな金額の時は、施工会社を決める際に複数の会社から見積もりを取って、比較検討することが一般的です。では、見積参加業者をどのように捜すのでしょうか。
分譲マンションの工事発注において、いくつか大切なポイントがあります。
- 公明正大な選択の結果で業者が選ばれること
- その業者が工事を完遂させる施工能力があること
- 次の修繕まで、もしくは工事保証がある期間は、その会社が存続していること
こういった条件をクリアするためには、偏った業者募集をやめ、見積参加業者をすべて等しく調査することが重要です。
見積参加業者を募る場合、偏った募集方法とは何でしょう・・・?具体的に例を挙げれば以下のようになります。
- 管理会社からの推薦業者だけで、競争入札が行われる
- ひとりの修繕委員や理事から、複数の施工店が推薦される
- どういう経緯をたどっても、いつも決まった会社が落札する
必ずしも正解ではないかもしれませんが、上記のような入札や発注が続いているようであれば、分譲マンションとしての発注にふさわしいかどうか疑問を持たれるべきではないでしょうか。
こういった状況を打破するひとつの方法に、区分所有者全員に対して見積参加業者の公募を行うことがあります。推薦できる建築や設備の専門会社を知っている方が多くないかもしれませんが、人づてに紹介してもらうことも出来ます。経験で言わせていただければ、下記のような推薦が望ましい形といえます。
- 1.その会社の施工を経験した方から、紹介してもらう。
- その会社を客観的に調べる方法はいろいろありますが、実は限界があります。それよりも実際にその会社とお仕事をした方から「あそこなら問題ない」という言葉があるほうが、その会社の実情を伝えていることがあります。しかしどういう方の紹介であっても、その会社の与信調査はしておくべきです。
- 2.知り合いのマンションの改修を請け負った施工店を教えてもらう。
- マンションの工事業者の入札に勝ち残り、なおかつ工事が好評であれば間違いが少ない選択といえます。住んでいるマンションの改修を現実にやってもらった方からの紹介であれば、その会社の様々な対応を目にしてきたわけですので安心です。
- 3.行や税理士などに紹介してもらう。
- その会社の決算書を目にすることが出来る方々の推薦は、会社の与信問題をクリアしていると考えられます。ただ施工能力の判断は決算書からだけでは出来ないでしょうから、調査をそこに絞って施工実績をしっかり診ていけば用足りることになります。
逆に望ましくない推薦は・・・
- 1.マンション区分所有者が経営者もしくは従業員の会社
- この業者が勝ち残れば、発注者と施工者が一緒というケースになります。工事中に何か不具合が生じたときに、その推薦者が発注側に味方するか、施工者側に味方するかがポイントです。後者のような行動に出た時、管理組合がつらい立場に立たされます。区分所有者に建築関連の方がいる・・・というケースは多いと思います。しかし、その多くの方は工事中のトラブルの折衝を考えると、自ら推薦して施工を請け負おうとは考えないのが一般的です。そのハードルを越そうとする業者は・・・そうまでしても仕事を取りたい業者とも言えます。
- 2.マンション内で過去にトラブルを起こしている方からの推薦会社
- トラブルの種類にもよりますが、マンション運営の支障になっている方や住民同士の紛争当事者からの推薦は、素直に受け入れたくない面は否定できないでしょう。推薦会社へのしっかりした調査が望まれます。
公募の準備をされる場合は、上記のポイントを踏まえた業者募集をされるべきと思います。
また公募に際しては、以下の体裁を整えた募集案内を作成しましょう。
- マンションの築年数や構造、規模
- 改修工事の内容や規模
- 推薦者との関係
- 推薦業者の条件
業者の与信調査の結果診断
与信調査で、該当会社のいろいろな面が明らかになります。工事中はもちろん、引き渡し後の保証期間中はその会社の存続が望まれます。そのためには、今後10年間程度は存続が期待できる会社にしたいものです。
その会社の与信調査はどのようにしたらいいのでしょうか。
決算書の提出などを義務つける方法はありますが、改ざんされた決算書が提出される可能性もあります。また決算書だけでは施工能力の判断はできません。そういう意味では、全社的な評価ができる方法に建設許可申請書の閲覧があります。
建設業を営む業者さんは、毎年の決算書の提出と3年ごとの業態状況の報告が義務付けられています。ここには、簡便な決算書のほかに過去3年間の工事実績(発注者名・工事場所・発注金額・工事期間・現場監督名)、経営者の個人経歴や従業員数、資格保持者などが掲載されています。
この中で調べたデータをどのように評価していくのでしょうか。
累積赤字があるなどのことが判明すれば、この時点でほかの評価をする必要もなく発注するに及ばない会社となります。赤字があった場合ですが、3期中1期程度の営業赤字であれば数字やほかの勘定科目の数字いかんではありますが、そのことだけで排除するのは早計かもしれません。
また、利益幅を役員報酬などで調整している会社があったとします。何とかぎりぎりの利益を出そうと、役員報酬を減らして決算数字を出している会社か・・・節税の為に利益調整しようと、役員報酬を増やして決算数字を出している会社か・・・どちらも毎年の役員報酬が変わり、そのことで数字を調整している会社ですが、会社の内実は天と地の差があります。
営業利益をどの部門で出しているかもポイントです。施工実績をみて、新築中心かどうか改装中心か?木造が多いか鉄筋コンクリートなどが多いか?元請会社か下請会社か?下請会社とするとどこから仕事を取っているか?これらの情報を分析しながら、ご自分が発注しようとする仕事に合った会社かどうかを判断していきましょう。また兼業部門(副業)がどのくらい会社の利益に貢献しているかは、安定性を判断する材料のひとつです。
社長を含めた役員の経歴も参考になります。
あくまで私見ですが・・・建設畑を歩んできた方は、技術的に安心感があり儲けより建物の質にこだわる傾向があります。不動産や銀行出身の方は、建物そのものに知識も関心もなく儲けの数字により興味を示す傾向があります。
新聞での施工業者の募集について
見積参加募集の際に、業界新聞を使って公募するやり方があります。一見多くの優秀な会社を広く集められるやり方のようですが、果たしてそうなのでしょうか。
業界新聞での公募の際に、必要以上に応募のハードルを上げる管理会社やコンサルタントがあります。確かにどんな会社が来るかわからないので、会社の与信は当然ですが同規模のマンションの年10棟以上の施工実績や、工事期間中の24時間緊急連絡体制、現場監督の自宅場所まで条件付けする公募があります。こういう条件で公募するマンションが、厳しい条件を付けざるを得ないくらいの大規模マンションであれば至極もっともな募集条件ですが、実はマンションがそれほどの規模でない場合もあります。このことが新聞公募の限界を意味しています。
新聞公募に応じる会社はどんな会社でしょうか。
積算をするには規模にもよりますが、それなりのベテランが2週間程度の労力をかけるといわれています。公募は、それなりに代償をともなうものなのです。だからこそ、成約の可能性があまりない工事の積算に慎重になるのが普通です。何のコネクションもなく、公募記事の段階ではどういう基準で先行されるか、何社の見積合わせになるのかもわからなく・・・ということから容易に想像できるように、公募に応じる会社は成約率が相当低いコンペということを承知の上で公募に応じるわけです。
仕事が潤沢な会社は、頼まれもしないのにそんな条件の悪いコンペには応じません。公募に応じる会社には、やむを得ない事情があるのかもしれません。会社決定においては、表面的な与信調査だけではなく、よりしっかりとした会社調査が必要になります。