建築の第三者機関からのアドヴァイス

工事請負契約書

契約の時期はいつか?

建築工事を施工会社にお願いするにあたって、打ち合わせが進み、ある時期がくると施工会社さんから契約締結の話が出てくることになります。建築工事は、改修工事であっても発注金額が百万単位となり、また耐用年数が20年以上の部分もあるため先方と契約を交わすことで、工事条件を確定させることは双方に異議ないことと思われます。

ところが、じっくりその契約を見直す時間の余裕をもらえず、契約内容があいまいのままで、施工会社から契約そのものを急がされるケースがよくあります。客の早い囲い込みが常態のビジネススタイルをとっている会社は、他社との比較検討を恐れ、ゆるぎない商品やサービスを持っていない会社であることが多いですが・・・自分が、契約の当事者になっていると相手のペースで契約をしないといけないと心理的に追い込まれる方がとても多いのが現状です。では、その契約時期はいつがいいのでしょうか。

まず、契約を交わすということは、以下の事柄が明らかになっている必要があります。

発注者

契約者を誰にするかについて、当事者が税法上などの問題を検証し、クリアになっているかを確認しましょう。土地の名義と建物の名義が同じほうがいいいか、発注者は法人がいいか個人がいいかなどの問題がそれに該当します。

発注金額

総額は決まっていることと思われます。しかしながら、その金額にどこまで含まれるのかを、発注者が知っているかどうかがポイントです。発注工事に対する見積書が提出されているでしょうが、その内訳を発注者が把握されているか、その内訳が見積書にきちんと表現されているか確認することが大切です。

発注工事の内容

どういう工事を行うかは、仕様書・図面に表現されます。施工業者さんに頼んだつもりであっても、その事が仕様書や図面に反映されていなければ、現実には施工されません。普段、図面を見る機会がない方は、渡された図面を見ても理解できないでしょう。それでも、不明なところがあれば、しつこいくらいに確認されるべきです。

工期

工事は、いつから始まっていつまでかかるのか、発注者としては当然の知る権利です。引き渡し期日に遅れれば、請負業者はその分のペナルティーを発注者に支払わなくてはいけません。工期のない仕事は仕事とは言いません。工期を明示することは、とても大事なポイントです。

上記の事柄が発注者・請負者共にはっきりしていない時期に、契約をすることはとてもリスクがあります。すなわち契約をする時期は、上記条件がはっきりとしていて発注者・請負者双方が納得したタイミングが望ましいといえるでしょう。

悪意がなくとも、一般的に施工業者は早く契約を締結させようとします。何故なら、時間がたてばいろいろと知恵を付ける方が現れたり、ライバルが出てきたりして自分のところに発注がされなくなる可能性が高くなることが、施工業者には経験的に分かっているからです。上記条件が一部でも不明解な時期に、契約締結を急ぐ案件や業者にはそれなりの注意を払う必要があるでしょう。

契約書の書式や添付書類はどこまであるといいのか?

建築工事のトラブルが起こった案件には、実は共通の形式があります。
すなわち・・・

発注内容があやふや

発注内容がしっかり書類で表現できていない、もしくはそんな書類がほとんどないにもかかわらず工事を始めてしまった場合がこれにあたります。これでは揉めるのは当然ですが、発注する際は発注者と請負者が相思相愛だったため、将来の行き違いを想像できなかったのでしょう。工事規模にもよりますが、第3者にも発注工事内容がわかる程度に書類を整える必要があります。

支払い条件が施工店にとても有利

トラブルが起こった場合、施工業者への支払いが残っていれば先方との交渉は格段にやりやすくなります。ところが、ほとんどの場合には工事が済んだ分の支払いが終わっているか、工事の進行よりも過度の支払いがされています。

仕様書,図面,見積書に食い違い

一見、契約書類が整っている場合でも仕様書・図面・見積書の内容が違うと、現場では混乱が起きます。司法の判断は、優先度の順番として(1)仕様書(2)図面(3)見積書としています。例えば、見積書になくても図面で指示されていれば請負会社はその該当工事を追加金額なしで行わなくてはいけません。ですから、図面に描いてあったのですが見積もり落とししたので、追加金額をください…ということは本来認められません。
書類の優先度トップである仕様書ですが、どういったものなのか知らない方が多いのも事実です。図面にはいろいろの情報が線や記号・文字で描かれていますが、図面の表現には実は限界があるのです。仕様書には、材料の種類・工事の施工条件などが書かれてあり、建築するうえでの細かい条件が付されています。

トラブルがないようにするためには、上記のような問題が起きないような書式にする必要があります。
契約書の書式は、以下の体裁を整えることが肝要です。

[1]かがみ
工事件名・工事場所・契約金・工期・支払い条件が書かれ、契約当事者の署名・捺印欄があります。
[2]約款
工事中および引き渡し後のさまざまなトラブル・・・たとえば、工事遅延、支払遅延、信義違反などに対して、発注者・工事請負者・監理者のそれぞれに明確な責任と義務、権利を記している規定です。様々な場面に言及して内容の信頼おける代表的なものは、「四会連合協定工事請負契約約款」です。
[3]仕様書
工事の施工条件を、工種ごとに細かく規定しています。信頼性の高い代表的なものは、「日本建築学会・建築工事標準仕様書」で、本棚ひとつ分くらいの分量の仕様書冊子で形成されています。
[4]図面
建築概要書、案内図、内外仕上げ表、面積図、平面図、立面図、断面図、矩計図、展開図、建具表、キープラン、構造図、電気設備図、給排水衛生設備図、空調換気設備図、ガス設備図、外構図などです。馴染みのない図面名称もあるでしょうが、発注者の依頼を正確に現場作業員に伝えるためには、それぞれ欠かせない図面ばかりです。
[5]見積要綱
見積もりを作成するにあたって、見積要綱としてさまざまな条件が付与されている場合は、その書類も契約に添付する必要があります。例えば、作業時間の制限、安全や防犯上の取り決め、運搬・駐車・保険などの仮設条件がこれに当たります。
[6]質疑応答書
見積もりをしている途中で、不明な点はコンペ主催者に対して質問が寄せられ、それについての回答が出されます。これらの質疑応答は文書で残し、契約書に付けましょう。質疑回答は、仕様書や図面を見てもわからなかった点についての解説だからです。
[7]変更要請内訳書もしくはVE案提示書
予算が足りなかった際に行う見積変更要請やVE提案があった場合も、同様に考えた方がいいでしょう。
[8]見積書
図面や仕様書に基づいて作成した見積書は、契約書式の根幹です。工種ごとに詳細な見積もりになっていないと、契約後の変更があった時に発注者・施工者双方が納得した金額算出ができません。見積書は木造住宅規模で30~40ページ、鉄筋コンクリート造や鉄骨造のアパート・マンションの規模で70~100ページ程度の分量がなければ、詳細見積もりとは言えません。

○○工事一式という表現が多い見積書について

見積書の形式は決まった形式があるわけではありませんが、見積内容を正確に相手に伝えるものでなくては
意味がありません。建築工事においては、最初の契約通りの内容で工事が終了することは、あまりありません。工事内容が変更になると、追加や減額工事が発生します。その場合、本工事の見積もりのどの部分が変更になったか、いくら追加になるのか、いくら減額になるのかが理解しやすい見積書になっているかということは、とても大切なことです。すなわち発注者・工事請負者双方に理解が得られる体裁を整える必要があるのは当然の配慮と思われます。

しかしながら、実はそういうように分かりやすい表現、いうなれば詳細な部材や工事の名称・数量がしっかり書かれている見積書になっていないケースが多々あります。木造の構造部材を1式1500万円とのみ書かれてあるハウジングメーカー、杭工事が1式3000万円とだけ見積書に表現している建築会社、電気工事が1式80万円となっている工務店・・・
このような工事見積もりには何が含まれていて、何が含まれていないかは一切ブラックボックスになっていて発注者にすらわかりません。これでは工事変更や一部中止の場合は、施工会社のさじ加減で変更金額が提出されてきます。発注者側でチェックする手段すらありません。

このような表現が、大きい金額でも平気で使われている会社には、発注者にきちんと工事内容や仕様を積極的に知ってもらおうという気持ちはありません。
一式いくら・・・という表現を見積書で使用する理由は、中身がしっかり決まっていないか、内容を説明するサービス精神がないか、見積内容を相手に知らせたくないかです。大きな金額で1式いくらという表現が出てきたら、何故こういう表現を採用したか質問してみましょう。
うちの会社ではこういう表現しかしていません・・・などの答え方で、誠実に見えたその会社の別の顔が垣間見られるかもしれません。