建物診断の進め方

既存建物の経年劣化診断は初めに目視や打診調査に代表される1次診断を行ないます。その1次診断だけでは判断がしづらい場合は、簡易な検査器具を使用する2次診断、検査部位専用の調査器械を使用する3次診断と段階をおって診断していきます。
診断は建物の躯体や仕上材に関わる建築(1次診断、2次診断)と空調換気、給排水、電気等に関わる設備に分けて行います。

建築1次診断

建物の漏水、仕上材の劣化や浮きについて目視や蝕手調査と並行して、以下の用具を使って調査・診断を行ないます。

伸縮テストハンマー

伸縮テストハンマー

外壁モルタルやタイル等の浮き状態を把握する為、このテストハンマーを使用します。
このハンマーで壁面や床面を軽く打撃し、その音の差異を耳で聞き分け、健全部か剥離部かの判断をします。
クラックスケール

クラックスケール

壁面のひび割れを測定するのには、このクラックスケールを用います。 0.05ミリ単位で、ひび割れの幅を測定することができます。ただ、ひび割れの幅が0.2ミリ以下のものは耐久性上必ずしも補修を必要とはしません。
デジタル膜厚計

デジタル膜厚計

ウレタン防水などの膜厚検査器械。 先端から針が出て、測定数値をデジタル表示します。
測定誤差 ±0.1mm 1㎡あたり16ヶ所のデータを取りその平均値で膜厚を判断します。
9Hの鉛筆

9Hの鉛筆

この鉛筆はモルタル表面の脆弱性を判定するのに使用します。 この硬さ9Hの鉛筆で判定したいモルタル表面に引掻き傷を付けます。
モルタル表面が9H鉛筆より硬ければ、8kg/c㎡以上の表面強度を有しているといえ、硬度の問題はありません。
水平器

水平器

これは床や壁の水平や鉛直を測定する器械です。
水平に関しては1/100単位で勾配を測定できます。
下地探索用具

下地探索用具

表面が仕上がっているために、その下の木や金属の支柱位置が分からない時に使用します。
このタイプは細い針と磁石で下地の位置と幅を特定できます。
非常用バッテリー点検具

非常用バッテリー点検具

誘導灯や非常灯はバッテリーが内臓してあり、停電時に一定時間点灯することになっています。
バッテリーの寿命は4~6年です。
この道具を用いて点検スイッチを引くとバッテリーの残量が有効か判明します。
レーザーポインター

レーザーポインター

青いボタンを押すとレーザー光が発せられます。
離れた場所を指示、特定する時に使用します。
発光ダイオード懐中電灯

発光ダイオード懐中電

こ灯の光は拡散しないで直進する性質を持っています。
確認したいポイントに向けると、光がリング状にならずにしっかり捉える事ができます。

建築2次診断

建物1次診断では該当部分の劣化状況が正確にわからない為に、その部分の改修方法に迷いが生じている場合は、改めて建物2次診断を行ないます。 以下いくつかの検査の実例をご紹介いたします。

仕上材付着力検査

仕上材付着力検査

鉄筋コンクリートの躯体に塗装や吹付をした仕上材が、どのくらいの強度で付着しているのかを検査します。

検査道具一式
4cm×4cmの付着板に2液のボンドを付けます。
2液のボンドをよく混ぜ合わせます。
混合が不十分ですと接着力が落ち正確な付着力が測定できません。
それを測定したい場所に貼り付けます。測定ポイントは同仕上材で2ヶ所以上、できるだけ環境が劣悪の場所を選びます。
具体的には塔屋や北側壁面等の紫外線や風雨にさらされている場所が望ましいと言えます。
ボンドが固まるまで1時間くらいかかりますので、テーピングで固定します。
1時間後ボンドが固まった段階で付着板に沿って仕上材(エレガンストーン)にカッター目を入れます。
これをしないと、付着板の周りの仕上材の付着力が加わって、正確な数字が得られません。
準備が整ったところで引っぱり用のアタッチメントを取り付けます。
付着力の測定器です。
この機械をアタッチメントと接続します。
取付が終わったところでハンドルを回しながら引っぱり調査を行います。
きれいに4cm×4cmのコンクリート面が表われました。
機械の上に載っているのが、引きはがした付着板です。
機械にその付着力「2.69」が表示されています。
単位はN(ニュートン)で「0.7」以上であれば付着力に問題はないとされています。

コンクリート中性化試験

コンクリート中性化試験

仕上材付着力検査をした同じ場所で表わしになった躯体コンクリートがどの程度、空気中の二酸化炭素によって酸化が進んでいるかを調査します。

始めに付着力検査をした場所のコンクリートのコアをドリルで取り出します。
今回は2cm程度のコア抜きとしました。
コアを抜いた跡です。
その前にフェノールフタレイン1%アルコール溶液を噴霧し、その色の中性化の進行を測定します。
写真のように赤紫色に変色しているところほどアルカリ性が保たれています。
取り出したコアにもフェノールフタレイン液をかけてみます。
表面に近いところ程、変色が薄くなっています。
それだけ中性化が進んでいる事がわかります。
コンクリートをはつらずに表面だけにフェノールフタレイン液をつけた場所もあります。
ここは塔屋の吹付の場所です。
最も風雨にさらされている環境の場所を選び、検査をしましたが、中性化はあまり進んでいないようです。
検査が終了した跡は塗装補修をします。

シーリング劣化調査

シーリング劣化調査

シーリングがどの程度劣化しているかは表面から目視しただけではわかりません。切り取りをした上で目視や成分調査をします。

サッシの周りに仕上材が被っているシール部分にカッターを入れます。
シール片を切り取ります。
弾力が残っていて、活きたシールの状態と言えます。
サッシの水切部のシールは表面にひび割れやチョーク現象が出ています。
念の為カッターで切り取ります。
シール奥はまだ弾性が残っていました。

鉄筋探査試験

鉄筋探査試験

壁やスラブ(床・天井)にクラックが生じていて、躯体の強度に疑問がある場合には構造的なチェックが必要になります。その際、鉄筋が設計図通りに入っているかを調べる検査にはいくつかの種類があります。以下その特徴をご説明します。

1.電磁誘導法

フェロスキャンと呼ばれる装置を使用します。ポローブコイルに交流電流を流してできる磁界を利用して、鉄筋などの金属の存在による磁束の変化を電流の変化として検出する方法です。主に鉄筋の平面的な表示(鉄筋位置、ピッチ)及び被り厚の測定をする場合に使います。

鉄筋探査機フェロスキャンです。
200ピッチの線が書いてあるあて板に装置を走らせ、鉄筋を探査します。

2.電磁波レーダー法

RCレーダーと呼ばれる装置を使用します。アンテナからマイクロ波をコンクリート内部に伝播させ、鉄筋で反射したマイクロ波をアンテナで受信し鉄筋の位置や被り厚を求めます。ある区間の連続した鉄筋本数やピッチ、被り厚の測定に使用します。

電磁波法装置RCレーダーです。
鉄筋の位置を装置を走行させながらチェックしていきます。

3.X線透過法

X線フィルムを片面に貼り、躯体にX線を透過させ、鉄筋像をX線フィルムに写し込みその存在を調査します

 

コンクリート圧縮強度試験

コンクリート圧縮強度試験

躯体の表面に白華やクラック、はがれ等の現象がある場合は、コンクリート自体の強度を調べた方がいいでしょう。

基本的には破壊検査にはなりますが、

  • コアを抜く時は事前に鉄筋探査をおこない鉄筋を傷めない様にする。
  • コアの直径は大きいほど正確なデータは得られますが、直径が小さければサンプル数を多く取る事により、試験データは得られます。
  • コアで抜いた後は無収縮モルタルで穴をしっかり充填する。

などに留意することで検査による躯体の傷みは最小限に抑えられます。

コンクリートの強度試験の為コアを抜きます。
最初に探査装置で鉄筋位置を確認して、ラインの印をつけます。
次に小径コア抜きの器械を壁に取り付けます。
直径25mm,長さ10cm程のコアを掘ります。
そのコアを採取します。
もともとはコアは10cm程の長さでしたが、直径の2倍の長さで測定が可能な為、大きな骨材がある場所を避けて両端を切り取ったところです。
圧縮強度試験機です。
ここにコアを立て、最大荷重を測定します。

設備診断

建築と同様に設備についても、1次~3次まで段階的に調査を行います。
設備には給排水衛生設備、電気設備、空調換気設備、消防設備等があります。 以下、各設備ごとの診断の一部をあげてみました。

配管類(給水等)

配管類(給水等)

1次診断

配管の目視による調査  

2次診断

内視鏡による配管内部調査 超音波による配管肉厚測定

3次診断

配管のサンプリング  

分電盤類

分電盤類

1次診断

盤内の目視による調査  

2次診断

絶縁抵抗試験
サーモグラフィによる盤内可視化
電気設備のサンプリング調査

換気扇・ダクト・その他

換気扇・ダクト・その他

1次診断

換気扇の目視による調査 ダクトの目視による調査

2次診断

カメラ(内視鏡等)による内部調査