超音波厚さ計による調査
錆で腐食した鉄骨鋼材の検証
経年劣化の非破壊検査のひとつに、超音波厚さ計を使用しての鉄骨鋼材厚さ検査があります。 鉄骨鋼材は、外気の触れる位置にある場合、保護塗装が経年劣化で傷み、放置しておくと 錆による浸食が発生します。
錆の浸食が10%を超えると、当初の設計耐力を失うと言われています。 錆の発現している鋼材が、耐力的に問題がないかどうかを検証する際、錆や残塗装部分を除去し 母材のみの厚さを計測し、構造図で示された鋼材の厚さと比較します。 しかし、板の形状であればノギスなどで鋼材の厚さは容易に測定できますが、角パイプやH鋼の ウエブなどの部位の厚さ測定は、工夫が要ります。
そのような場合、超音波厚さ計を使用します。 検証したい材種ごとに設定を調整し、接触端子を検体に当て、厚さを計測します。 内側からのアクセスが困難な対象物であっても、片面のみ露出していれば測定可能です。
具体的な測定事例は以下のようになります。
事前準備
材質には固有の音速があり、超音波はその音速で測定対象物の中を伝わっていきます。鉄の場合は、音速5900m/sにセットします。
測定前には必ず校正作業を実施します。測定器本体の右下のテストブロックに探触子を接触させます。音速設定が5900m/sであれば、厚さが4.00mmに校正されます。
検証事例1
鉄骨造の建物ですが、建て方工事終了後に工事が中断した物件です。鉄骨表層に発現した錆の影響を調査しました。柱に発現した表層の錆をスクレーパー、ワイヤーブラシを使用し表面を平滑にしました。
探触子を対象鉄骨鋼材表面に接触させると本体のディスプレイ数値が表示されます。鉄骨厚さは、16.47mmでした。今回は、公称値16mmの鉄骨を使用していましたので、錆の影響はほとんどないと判断しました。
検証事例2
築42年の鉄骨造の倉庫の経年劣化診断を実施しました。鉄骨鋼材の錆浸食を超音波厚さ計を使用して検証しました。
構造図が残っていないため、現地での外寸確認からスタートしました。検体丸パイプの直径は、101.6mmでした。規格の厚みは、5.00mmとなります。
各鉄骨部材の錆びによる断面の浸食を高所作業車にて計測しました。軸ブレースの主材の母材断面の厚みを計測している様子です。
計測結果は4.49mmでした。軸ブレース主材は規格の厚みで5.00mmで0.51mm錆浸食されています。断面の10%ほどが錆によって浸食しています。
軸ブレースの斜材の断面の厚みを測定しました。錆止め塗装を一部剥がし、超音波厚さ計の探触子を接触させることで、母材の厚みを測ります。
計測結果は2.95mmでした。斜材の規格厚みは、3.20mmとなり、0.25mm錆びていることが分かりました。腐食は断面の10%未満に収まっています。
検証事例3
築40年の鉄骨造平屋の経年劣化診断です。鉄骨の錆の進行状況を超音波厚さ計を使用して検証しました。
校正前に鉄の音速5900m/sに設定し、テストブロックに探触子を接触させて厚さ4.00mmとして校正を確認しました。
鉄骨梁のウェブの部分の厚みを測定しました。
測定結果は6.27mmでした。元の厚みが6.5mmとなり、若干腐食が進んでいますが、構造耐力上問題は無いと判断しました。